Nature 自然灰釉について |
釉薬は、科学の力を借りれば、どんな色合い・雰囲気のものも作り出せるといわれています。
しかし、もっと精妙で敬虔な思いの生じるような人知の及ばない世界があるのではないか、
そういう器や釉はないのだろうかと求めてきました。
春は菜の花を集め、夏にはひまわりの花を刈り取り、秋にはススキを集め、四季それぞれの色を
器に移し取る「陶器の草木染」が自然灰釉づくりと考えています。
人間一人ひとりに個性があるように、花や木や木の実、果物、野菜たちにも、さまざまな個性が
あり、それぞれが美しく深い独自の色合い、雰囲気を持っていると信じ、それぞれの個性を生かした
灰作りを繰り返し、薪窯で優しく丁寧に焼き上げています。
詩人の金子みすずも言っています、「みんな違って、みんないい・・」と。
自然灰釉釉とは、トマトやナスなどの野菜の灰を原料として
釉薬をつくり、それらを掛けて焼いた陶器のことです。
昔から灰釉の材料は、木か草かワラとしか考えられて
いませんでした。満願時窯では、それらにとらわれずに、
木にも柿や梨や梅などがあり草にもワラやヨモギやススキや
クローバーなどがあるように、それぞれの自然生物の個性、
生きざまを灰として生かそうと研究してきました。
このような野菜や野の花を使ってそれぞれの植物の特性、
生き方を陶器の釉にするという発想はいままでなく、
日本独自の発想で、おおよそ25年前に満願寺で
はじめられたものです。
樹木 栗 桜 梅 柿 杉 松
野の花 アザミ 菜の花 ススキ
野菜 トマト なす メロン
木の実 リンゴ 栗 柿 桃の実 梅の実
穀物 トウモロコシ 麦 小豆
その他 みかんの皮 柿の皮 栗の皮 イチョウ葉 ヨモギ葉 ワインの搾りかす
などがあります。
この桜の釉薬は近くの小学校でプールを造るために切倒された
八本のから創られたものです。
1kgの桜の木から1gほどの桜の木灰釉ができます。
桜釉は天然酵母パンを焼くのに似て微妙な温度差で全く違う
色に仕上がります。同じ色の器はなかなかとれません。
しかし時に匂うような美しい色で窯から出てくることが
あります。そんな桜色の器は数少なく貴重な神からの
贈り物に思えて仕方ありません。桜染めの器を造るには
窯の温度に対する熟練が必要とされます。
夏のよもぎを軽トラックで2台分程集め乾燥し、灰にして、
水に3年程さらして釉薬にしました。
透明感があり、まるで漆のような風合いに仕上がることが
あります。
また温度によっては"漆黒"な仕上がりを見せることがあり、
同じ色はなかなかできません。天候や季節の温度差に
左右され、その都度違った色合いで出来てきます。
それが野菜釉の難しさと楽しさです。
藍で染めた布はありますが、本物の藍で染めた器は今まで
ありませんでした。
これらの器が日本で初めての藍染の器といえるでしょう。
藍の釉は、深い紺色で黒に近く晴天の宇宙の色を思わせる
ものがあります。藍の灰は器1個分の量で、藍染めの
上着60着分くらいの葉をつかいます。
この器は純メロン(メロン数百個分使用)だけでつくった灰釉を
かけて、美しくメロン色につくったものです。
人工の白色釉と違った自然のなんともやさしいメロン色を
見せてくれます。
軽トラック2台分の木を灰にするとたったバケツ一杯分
(3〜4キロ、全体の0.1〜0.3%)の荒灰にしかなりません。
灰にしてから不純物を取除き、水にさらして精製してゆくと、
さらに量は減ってしまいます。
こぼれた水滴のような量でも「オーオーもったいない」と
すくいとって桶に戻すくらい、貴重な釉が桶の中で出番を
まっています。
右は乾燥させた完成灰。大切に保存します。